メルカリ

メルカリをはじめた。
メルカリがサービスを開始したのは2013年なので、遅れること5年。
「イノベーター理論」※1でいうところの、アーリーマジョリティを自認する私※2がメルカリを始めたということは、おそらく、いやほぼ確実に、近い将来メルカリは社会のプラットフォームとして定着していくだろう。
それどころか、メルカリは社会そのものを変えるといっても、決して大げさではない。
メルカリ自身も、自らのミッションを「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイス※3を創る」と定義し、新たな価値を生み出すことを使命と課している。

メルカリが生み出す新たな価値とは何だろうか。

メルカリが生み出した価値とは、これまでゴミ同然だった個人の中古品に価値を与え、誰でもモノを売れるようにすることで、人間のプリミティブな欲求をテクノロジーで復活させたことだろう。
これまでは、処分ニーズはブックオフに代表される店舗型中古ビジネスによる寡占状態だった。※4
しかし、ブックオフに古本を持っていっても無料同然で買いたたかれ、服にいたっては古着屋に持ち込んでも買い取ることさえしてくれやしない。
私もさんざんブックオフで本を売ったが、一度もいい思いをしたことがない。
どんなに高くても1冊100円、値が付けばまだいいほうだ。
何十冊、何百冊の本を持ち込んでも、二束三文で買いたたかれる。
ところが、メルカリでは1冊の本を1000円以上で売ることが可能なのである。
事実、私は定価1944円の新刊本を、1590円で売ることに成功した。
ブックオフでは絶対にありえないことだが、メルカリでは珍しいことではない。※5

それだけではない、メルカリの本当のすごさは、新しいマーケットを創造したことである。
先ほどの例をもう一度だすと、定価1944円で買った本を1590円で売ったということは、たった350円(ただし送料と手数料を含めると700円程度になる)で、新刊本のコンテンツを手に入れたということになる。
ベストセラーになるような有名な本ならば、発売後すぐに売ってしまえば元手の大部分を回収できるのだから、これまでのように買うかどうかのハードルがぐっと低くなる。
また逆に、メルカリの出品の有無を確認して、メルカリの方が安ければメルカリで購入するようにもなった。
つまり、メルカリで売買することを前提にした経済活動が行われるようになったのです。
現実の店舗で表示されているタグは絶対的な価値ではなくなり※6、メルカリ相場が新しく現代の価値のバロメーターとなった。
このようにメルカリで価値交換されるということは、メルカリでモノを売って発生した売り上げはポイントに換えてメルカリで別のモノを買うというように、メルカリ内でぐるぐる回っている。
私も一円も使わずに、メルカリ内でドライヤーやスラムダンク新装版全巻セットなどを購入した。
これがメルカリ経済圏とよばれる新しいマーケットだ。
商品はお金のように、ぐるぐる回る。
だから、これからは商品がシェアされることを前提にビジネスする必要がある。
たくさんモノを生産してもビジネスにならない。
大量生産→大量消費の前近代型のビジネスモデルは、日用品ぐらいにしか適合しなくなるだろう。
すでに家電や書籍やファッションなどは、所有ではなく、シェアを前提にしたスモールビジネスに軸足は移っている。
実際、メルカリのカテゴリー別販売額割合を見てみると、ファッションが40%程度、書籍を含むエンタメ・ホビーが20%程度、家電が10%程度で、その3つのカテゴリーで約70%を占める。
メルカリが社会を変えたと言っても大げさでないことがご理解いただけただろうか。

メルカリによってCtoCのプラットフォームとなるインフラが構築された。
近代以降モノを売るのは会社で、買うのは消費者という役割に分かれていたけれど、メルカリによって誰でもモノを売れるようになったことで、消費活動が経済的合理性にもとづく市場原理に支配されたマーケットから解放された。
これからの消費活動は、人と人をつなぐという、プリミティブな贈与原理にもとづくものへと回帰していくだろう。
その兆候はすでに表れている。
ニールセンの調査によれば、ユーザーの一人当たりの月間利用時間はSNSをはるかにしのぐ。
フェイスブックが2時間39分なのに対して、メルカリは3時間30分。
同じマーケットプレイスの土俵のライバルであるamazonの月間利用時間が1時間26分なのだから、その熱中ぶりは群を抜く。
amazonのようにワンクリックで必要なものを手に入れるだけの消費行動は味気ないし、フェイスブックの「いいね」は、いくら集めても金にはならない。
メルカリは両者の長所を掛け合わせたサービス、つまり、メルカリは承認欲求と消費行動を一体化した、ソーシャルな価値交換サービスなのである。
メルカリは値段交渉が当たり前で、かつての市場にあった熱がある。
バックパッカーとして訪れたアジアの町を想起させる。
何をするにも、人を介さねば始まらない。
その手間が面倒くさいというユーザーもいるが、やはりその交渉も含めてメルカリの魅力なのだと思う。
だから、メリカリはもののやりとりにとどまらず、SNSのように中毒性があり、DB化されたリアルマーケットで失われた感動がそこにはある。

しかし、メルカリが特別なことをしたとは思えない。
メルカリは、商売の基本である「三方よし(売り手よし 買い手よし 世間よし)」をテクノロジーの力を使って実現しただけで、テクノロジーは進化すれど、人間のプリミティブな欲求は不変だ。
テクノロジーの力を使って、人類はより原始的な生活に回帰していく移行期に、我々は生きているのかもしれない。
メルカリはそんな可能性を感じさせる事件だ。



※1「イノベーター理論」:1962年にスタンフォード大学社会学者であるエベレット・M・ロジャースが提唱した、新製品や新サービスの市場浸透に関する普及学の基礎理論。ロジャースは新しいサービスや商品、ライフスタイルや考え方などが世の中に浸透する過程で、どのような価値観を持った人に受け入れられていくかを、購入(採用)時期によって分類した以下の5つのグループで説明した。
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①イノベーター(Innovators:革新者)
冒険的で、新しいものを進んで採用する人。イノベーター層の購買行動においては、商品の目新しさ、商品の革新性という点が重視される為、商品のベネフィットはほとんど無視される。市場全体の2.5%
アーリーアダプター(Early Adopters:初期採用者)
社会と価値観を共有しているものの、流行には敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人。商品のベネフィットを理解したうえで購入に踏み切る。他の消費層への影響力が大きく、オピニオンリーダーとも呼ばれ、商品の普及の大きな鍵を握るとされる。新製品や新サービスが提供するベネフィットが必ずしも万人に受け入れられるとは限らないため、市場に広く浸透するかどうかはアーリーアダプターの判断や反応によるところが大きい。市場全体の13.5%。
③アーリーマジョリティ(Early Majority:前期追随者)
新しい様式の採用には比較的慎重派だが平均より早くに新しいものを取り入れる。アーリーアダプターオピニオンリーダー)からの影響を強く受け、新製品や新サービスが市場へ浸透する為の媒介層であることから、ブリッジピープルとも呼ばれる。市場全体の34.0%。
④レイトマジョリティ(Late Majority:後期追随者)
新しい様式の採用には比較的懐疑的な人。周囲の大多数が使用しているという確証が得られてから同じ選択をする。新市場における採用者数が過半数を越えた辺りから導入を始める為、フォロワーズとも呼ばれる。市場全体の34.0%。
⑤ラガード(Laggards:遅滞者)
最も保守的な人。流行や世の中の動きに関心が薄い。イノベーションが伝統化するまで採用しない。伝統主義者とも訳される。最後までなかなかイノベーションを受け入れない層で、中には最後まで不採用を貫く者もいる。市場全体の16.0%。
※2古くはMDを使い始めたのも、クラスではおそらく最初だった。(買ったのが早すぎて製品のスペックが低すぎたことをよく嘆いていた)スマホも職場では早い部類。最近格安SIMに切り替えた。
※3スマーケットプレイス:インターネット上に存在する物の売り手と買い手が自由に参加 できる取引市場。
※4インターネット黎明期、ECサイトの出現によって問屋不要論がまことしやかに噂されたが、事態はそこまで深刻にならなかった。本当の危機は、メルカリによってもたらされた。現時点ですでに、メルカリでは毎日100万点以上が出品され、市場規模はBtoCの店舗販売とほぼ拮抗している。おそらく、ブックオフなどの店舗型中古ビジネスは、早晩駆逐されるだろう。地方の国道沿いの風景を一変させるやもしれない。
※510冊以上の書籍を売却して20000円近くの売り上げを手に入れた。
※6ただし、現実の店舗で表示されるタグが示す価値から解放された訳ではない。正価がある商品のほとんどは、正価以上の値がつくことはない。そして、メルカリ内でも価値の多くはブランドによって担保されている。だから、ブランド品は高値でやりとりされる。