違和感

ハインリッヒの法則とは、「1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故(ヒヤリハット)がある」という労働災害における経験則であるが、ここんとこ、正確に言うと担任するようになったこの1年で、ささいな“違和感”がトラブルや事件に発展することを何度も体験した。

子どもたちは、視線や表情、行動などで非言語のシグナルを発している。
そんな当たり前のことだが、30代の自分は気づいていなかった。
40代になって、教育観が転換し、一方的に自分の価値観を押し付けることがなくなって、はじめて気づくことができるようになった。
今までになかった感覚だ。
自分の価値観にとらわれないから、先入観や偏見や好き嫌いを排除してフラットに観察することができる。
もちろん直接コミュニケーションとって、その反応から違和感を感じることもあるが、この1年はささいなしぐさや表情から変化を察知し、トラブルを未然に予見することが圧倒的に多かった。
それができるようになったのは、さらっと教育観が転換したと言ったが、まさにそれである。
教師という権威を捨て、ともに学ぶというマインドセットを身につけ、教えることteacherであることを一旦わきに置いて、教育することeducaterであることを優先するようになったからである。

だからトラブルも成長の機会であり、教師が一方的に解決することはしない。
教師が発する問いは基本的に以下の4つである。
「どうしたの?」(事実の確認)
「どうしたいの?」(意志の確認)
「どんなことができそう?」(行動促進)
「先生にしてほしいことは?」(リソースの提供)
生徒がトラブルを自分自身で解決することがゴールである。
トラブルを防ぐことが目的ではない。

トラブル万来の精神でいると、逆にトラブルがよくみえる。
トラブルを見つけよう、叩き潰してやろうと構えているとトラブルそのものが見えなくなる。
見えたとしても、見えたときには手遅れになることが多い。

違和感は大きな武器であるが、形式知として人に伝えることは難しい。
ベテランだからこそ感知できる暗黙知なのだろう。
それであれば、ベテランもフロントラインでたたかう意味がある。
違和感こそ、40代最強の能力だと今は思っている。