YouTubeな時代

一昔前は大騒ぎし、だいぶこすられましたが、今やユーチューバーがなりたい職業にランクインしても全く不思議なことではなくなりました。
それどころかついにユーチューバーが小学生男子の将来つきたい職業ランキング1位※1に輝きました。
そもそもユーチューバーとは職業なのかと物議を醸したのも嘘のようで、今やユーチューバーは堂々たる人気の職業です。

特に、このコロナによる自粛期間にオンライン化がすすむと、われわれ教師も含めた素人でさえも否応なしにYouTubeの領域に進出するようになっていき、それまで私にとっては音楽を“聴く”メディアに過ぎなかったYouTubeを“見る”機会が飛躍的に増えました。
そんな折ふとした拍子に、YouTubeで気になることを発見しました。※2
ユーチューバーが配信の最後に必ず言う決まり文句の「チャンネル登録お願いします」です。
それまで一度もチャンネル登録をしたことなかった※3ので気にもせずにスルーしていたのですが、チャンネルを無限に登録できることに気づいてしまったのです。
しかも、当たり前だが自分の見たい番組だけを選ぶことができる。
YouTubeとは言い得て妙なもので、まさに「あなたの管」なのです。
今では薄型TV以外のTVを見ることはなくなってしまいましたが、十数年前まではテレビのことをブラウン管と呼んでいました。
ブラウン管ならぬあなた向けにカスタマイズされた管だからYouTubeなのです。
YouTubeの革新性はここにあります。
われわれは、一方的に、決まった時間に、限られたチャンネルの中からしか選べないテレビ(ブラウン管)から解放されたのです。
テレビは制限されたメディアで、YouTubeは開放されたメディアであるということは、チャンネルのことだけでなく、作り手についても言えます。
先ほど、教師がYouTubeに進出した話をしましたが、YouTubeの世界ではプロとアマチュアの垣根がありません。
現に、アメリカのユーチューバー番付1位は9歳の小学生で去年約30億円稼いだらしい。

かつて大きな物語を創造するメディアとして機能していたテレビは、価値観が多様化した現代では、個別最適化された自分の物語を創造するメディアであるYouTubeにとってかわられた。
つまり、組織の時代から個の時代へパラダイムシフトしたということでもある。※4
テレビ・YouTubeに内在された価値を一覧にしてまとめてみたのが下の図である。

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このように、YouTubeは時間・空間・資本を開放し、人々に自由を与えたが、これはYouTubeに限った話ではなく、いつの時代も時代を象徴するプロダクト・サービスは人類の「より安く・より早く・より遠くまで」を実現することに貢献している。
1960年代 三種の神器
1970年代 新・三種の神器(3C)
1980年代 ビデオ・ウォークマン
1990年代 Windows95(パーソナルコンピュータ)
2000年代 iPhoneスマホ
2010年代 youtube
2020年代 zoom?
zoomはまだ予測にすぎないが、これらが時代を象徴するプロダクト・サービスということは時価総額によっても裏付けられる。

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おもしろいことに世界と日本を比べると、日本は世界から10年遅れで時代を象徴するプロダクト・サービスを提供する企業の時価総額が増えることがわかり、日本が世界というロールモデルをキャッチアップして成長する国家だということが一目瞭然である。
しかし、例外が1つある。
2010年代のトヨタ自動車である。
これまでのルール通りなら、2010年代にGAFA的なプラットフォーマーがランクインしていないとおかしいのだが、2020年代ソフトバンクGがかろうじて4位にランクインしただけである。
デジタル化という市場において、日本はもはやキャッチアップすらできていないということを示しており、今後10年の日本の危機的な状況を暗示している。

教育はというと、もっと危機的状況です。
管理教育という成功体験からいまだに脱却できず、多くの落ちこぼれとふきこぼれを放置する偏差値によって選別するシステムに依存し切っている。
というか、偏差値以外のものさしがありません。
これは、教育界だけでなく、メディア、保護者など問題でもある。
偏差値という共通言語でしかコミュニケーションできずに、思考停止に陥っている。
YouTubeな時代の教育には、正解を早くたくさん解答するための先生は必要ありません。
学習とは伝達ではなく、変容であり、変化こそ学びの本質です。
YouTubeな時代に必要なのは、学び(変化)へとナビゲートするファシリテーターです。
どうしてもこのパラダイムシフトが現場に浸透しないのがものすごく歯がゆく、ここんとこのブログは手を変え品を変えこのことばかり言っている気がしますが、時代が必要としているのは、もはやテレビ的な価値システムではなく、YouTube型の価値システムなのであり※5、それは教育にも当てはまります。

「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである。(It is not the strongest of the species that survives, nor the most intelligent that survives. It is the one that is most adaptable to change.)」チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin

教育にも変化を。

 

※1 学研教育総合研究所小学生白書2019
※2 40歳を超えてくると、違和感というやつも馬鹿にならないもので、ここんとこ違和感がスタンドインすることが多く、直観に対する信用はうなぎ上り
※3 私が初めてチャンネル登録したのは、コロコロチキチキペッパーズの『よろチキチャンネル』
※4 これ余談なんですけど、菅首相の息子が総務省官僚を接待した放映権絡みのスキャンダルが世間を賑わしていますが、これこそ愚の骨頂で、メディアの中心はYouTubeに移ってしまったのに、大人たちはいまだに重厚長大なテレビという利権に群がっている様は、時代錯誤も甚だしく、怒りを通り越して呆れるばかりである。
※5 山口周氏も価値創造システムの変革を指摘しているが、それはTV型社会からYouTube型社会に符合する。f:id:tokyonobushi:20201221111848j:plain

参考文献:山口周『ビジネスの未来 エコノミーにヒューマニティを取り戻す』2020 プレジデント社