ポケモンGOにハマる

ポケモンGOに周回遅れでハマっている。
どのくらいハマっているかというと、2017年7月末現在で、初代カントー地方(赤・緑)は143種類※1、第二世代ジョウト地方金・銀)は87種類を図鑑登録し、ポケモンマスターも近い。
ポケモンGOリリース以前のポケモンに関する知識が、かろうじてピカチュウを認識できる程度にすぎなかった※2ことを考えれば、驚くべき事態である。※3


そもそもポケモンGOとは何かというと、乱暴を承知で一言で言ってしまえば、スマホを通して街の中でポケモンを捕まえるという体験ができるアプリです。
その体験を可能にしているのが、AR技術です。
AR技術、つまり拡張現実※4こそポケモンGOポケモンGOたらしめ、ネットとリアルを融合させる革新的技術です。
革新的とはどういうことかというと、アプリ(ネット)で土地(リアル)に意味を与えることで、現実を上書きし、行動を変容することが可能であることを実証したことにあります。
二条城に行けば、必ずコイキングと遭遇できるし、祠という祠はポケストップになり、坂本竜馬おりょうの縁を結んだ近くの神社はジムに変貌し、天下一武道会の様相を呈している。
ピンとこない人でも、石巻ラプラス大量発生イベント※5やお台場がポケモンマスターによってジャックされた※6というニュースならばご存じかもしれません。
残念なことに、このポケモンGOに関する報道は、モラルの問題に矮小化され、マスメディアがその革新性について言及することはありませんでしたが・・・


ポケモンGOの革新性がAR技術にあることは、ポケモンGOにハマっているのが、子どもたちより大人であることからもわかります。
それは、そもそも拡張できる現実を子どもたちは持たないからです。
グローバル化※7した現代でも子どもたちは現実によって制約されています。
小学生にとって世界とはほぼ校区内であり、校区外は異界のようなものです。※8
高校生にとって多少範囲は広まれども、毛が生えた程度です。
だから、街でポケモンに興じる人を見渡しても、今やそのほとんどが中年になったしまったのです。

さらに驚いたことに、その中年が、ポケモンGOの機能の一つであるジムを巡って、刃傷沙汰まがいのトラブルを起こしているのです。
以下がポケモンGO攻略サイトに投稿された書き込みです。


「本日の出来事!呆れたおやじ達」
こんばんは
日記みたいでごめんなさい。
休日ということもあり普段は行かない地域に行ったのですが
手ごろなジムがあったため暇つぶしに攻めていたところ
俺のジムに何しやがる!って叫びながら隣の民家から男が飛び出てきました。
結局ジム両隣の民家から二名の男性が同じように出てきたのですが
二人とも歳の頃なら50代後半、一人はバーコード頭の親父ですぐにヤメロと言い出しました。
いつからジムを占拠する権利ができたのか、誰が攻めても問題ないだろという私に対して、とにかくコインが稼げなくなるから俺が置いてるジムは攻めるな、の一点張り。
別にやりあってもよかったのですが、こんな奴らには何を言っても無駄だと思い私が引くことにしました。


仮想空間にあるはずのポケモンGOが現実をハックした象徴的なエピソードです。
この“呆れたおやじ達”は明らかに、現実よりも、拡張現実されたポケモンGOの世界に支配されて生きています。
つまり、もはやポケモンGOは現実なのです。
このエピソードで私は確信しました。
ポケモンGOに限らず、ネットを媒介とした現実はいまや無視できない社会的現実であり、やがて、世界の半分はネット内で建設され、人間がその世界で人生の半分を過ごすようになるということを。
実際に、マクドナルド・ソフトバンク・イオンなどはポケモンGOと提携することで、バーチャルリアリティーを現実を変えるものとして活用し、ビジネスとしても成立させようとしています。
AIによって、2020年以降50%以上の人が今は存在していない職業に就くだろうというという予測がありますが、正確には、その50%近くの職業が拡張現実に移行するということを意味していのです。
自動車の誕生が産業構造にどのような影響を与えたかを考えれば、想像に難くないでしょう。
それと同じことが、目に見ない世界で起こっているのです。
これはコロンブスに匹敵する世紀の大発見です。
人類は、すでに未開の地を失って久しい。
拡張現実という革命によって、開拓され尽くした現実世界という制約から解放され、無限のフロンティアを手に入れたのです。
ビジネスの主戦場は早晩拡張現実に移行し、さながら20世紀前半の植民地獲得競争の様相を呈するでしょう。
これが、人類史上4番目の革命である情報革命の本質なのです。

グーグルの社訓どおりに、現実は、ほとんどすべてが既知の情報と化してしまった。
逆に、ネットの中にしか、未知はないといってもよい。
だから、ポケモンGOが手放せないのです。
AIの発達によってこれからはさらなるコンビニ社会が到来するでしょう。
そうなると、逆に人生とはいかに時間をつぶすかという感覚が強くなるはずです。
つまり、終わりなき日常が続く。
その終わりなき日常という閉塞感を吹き飛ばすのに、ハロウィンやクリスマスを待つ必要はないのです。※9
拡張現実さえあればいいのです。
ポケモンGOが終わりなき日常に意味を与える。
高温多湿で不快な7月のある日がポケモンGO1周年記念アニバーサリーとなり、ありふれた日常が祭りと化すのです。


私がポケモンGOにハマったのも、それが一番大きな理由です。
はっきり言ってしまえば、暇だったのです。※10
だから、見たことも聞いたこともないモンスターを捕まえてみたくなったのだと思います。
そして、モンスターを捕まえていくうちに、モンスターを捕まえることよりも、その背後にあるポケモンという世界を、ほんの小さな違和感や疑問を手がかりにして、獲得していく方がおもしろいと考えるようになったのです。
というのも、ポケモンGOほどイムフなゲームはありません。
そもそもポケモンGOには明確なストーリーがありません。
それどころか何をしたらゲームクリアなのかがわかりませんし※11、モンスターボールでモンスターを捕まえるだけでは、図鑑を埋めることすらできません。※12
進化という概念※13や、アメという道具、相棒という制度※14、巣の存在など図鑑コンプリートに必要なゲームルールは全て後から自分で発見したものです。※15
さらに、つい先日から、ポケモンGOにレイドバトルと呼ばれる特定の強力なボスに大人数で挑むイベント機能が追加されました。
これにより、ポケモンGOに「ポケモンを捕まえる」「ポケモンを育てる」に加えて、「仲間と協力してレイドバトルに勝つ」という新しい価値が付加され、現代的な価値観の象徴とも言える仲間が必要なソーシャルゲームへと進化しました。
このように、ポケモンGOとは、プレイヤー一人一人が自分で物語を紡ぎ、物語を前進させるに仲間が必要なゲームと言えます。
誰もが同じ物語を歩むテレビゲーム世代のRPGとは違う、きわめて現代的なゲームです。
昭和の終わりくらいから、世界から大きな物語は消失しました。
みんなが同じ目標に向かって生きる時代は終わっていたにもかかわらず、同じように生きることを求められたのが、「失われた20年」とよばれるその後の時代でした。
「失われた20年」に終止符を打ったのが、ポケモンGOだと言っても過言ではないと私は考えています。
ポケモンGOは、そうした終わりなき日常をサバイブするために必要な、野生の知性を胎動させたのです。
そう、ポケモンGOが映し出す時代に必要なのは、まさに、知識ではなく、知性なのです。



未来を切り開くカギは知性なのです。
そして、それはポケモンGOであっても育むことはできる。
だけれども、学校で育むことができるとは限らない。
なぜなら、知性は知識を詰め込むだけでは育たないからです。
知性とは、知性への激しい渇望につき動かされた学び続ける者にのみ宿るものだからです。
そして、自明性を疑う勇気も必要です。
正直、コンサバな職場に嫌気がさすことの方が多いですが、私はそういう存在でありたいし、教育者はそうあるべきだと本気で思っている。


ポケモンGOは、今の日本や世界を動かす大きな流れを象徴する一つの事件であり、私たちの生き方にとって重要な問題提起を含んでいる。



※1海外ポケモンを除いてコンプリート。
※2ポケモンが誕生した頃にはもう高校生だったから、そもそも世代がズレていた。同じく国民的ゲームである『妖怪ウォッチ』と混同して甥っ子によく怒られた。
※3職場でカミングアウトしたところ、皆に目を点にされたが、最近では年休をとると、ポケモンマスターへの旅に出たと言われる。あながち間違いでもない。
※4コンピューターによって現実の環境に映像やデータを付加し、利用者に情報を提示する技術。バーチャル・リアリティの場合、そこにはない世界を提示するのに対し、拡張現実は現実をベースに、そこに情報を付加するのが特徴である。
※5ラプラス出現率アップイベント中に、福島県沖で地震が発生。震災からの復興を後押しするイベントが、逆に新たな災害被害を起きかねないと、炎上騒ぎとなる。
※6ラプラスがお台場レインボーブリッジに出現したことでポケモントレーナーが歩道のない道路上へなだれ込み交通網が麻痺した事件。
※7ポケモンGOは世界中のほとんどの国でプレーできる数少ないグローバルなゲームです。グローバリズムにふさわしい現代的なゲームといえる。
※8校区なんて言葉を何十年ぶりに使っただろう。懐かしくも馬鹿げた制度だ。
※9ハロウィンの大流行や、ロックフェスの人気は、閉塞感と無関係ではない。
※10あるサイトによれば、レベル40には概算で2000時間はかかるそうです。私は現在レベル34なので500時間はポケモンGOに費やしているようです。まさに暇人。
※11レベル40で、図鑑・メダルコンプリートしてもゲームを続けているポケモンマスターが存在しています。ポケモンGOには終わりがない。
※12図鑑を埋めることがゲームの目的であるとするならば、同じモンスターは集める必要はないので、一時期、一切のモンスターボールを使うことをやめたことがありました。今思えば、ほほえましいエピソード。
※13イスラムではモンスターの進化がイスラム教の認めない進化論に抵触するらしく、ポケモンGOの是非について議論が起こったそうです。
※14走るという行為と親和性が高いことも私向きのゲームでした。一定の距離を移動することで卵を孵化させてモンスターを集めることや相棒としてアメを収集し進化させることも可能で、それは、レアモンスターを手に入れる最も現実的な方法です。不登校に効果があるというのにも納得がいきます。
※15アイテムがいっぱいになって卵を手に入れることができなくなって、やる気を失い、しばらくゲームから遠ざかってしまったことがありました。のちに、アイテムを捨てるという機能があることに気づき、再開するというような『蘭学事始』的なエピソードが山盛りあります。